京都大学
防災研究所 流砂・砂防研究分野
工学研究科 社会基盤工学専攻 砂防工学分野

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流域の健全な土砂環境を創造するための総合研究

砂防工学は、安全と環境の両面で健全な流域を創造するための技術開発に向けた学問で、土砂水理学、水文学、地形学、地質学、生態学など幅広い分野を包含しています。 本研究室では、「防災」と「環境」という2つのキーワードのもとで、流域の土砂の侵食・堆積や流出の把握や制御に関するテーマや、健全な流域の土砂環境を維持するための技術開発に関連した研究を進めています。 

研究テーマ

土砂災害の防止・軽減に関する研究

斜面崩壊や土石流による土砂災害の防止と軽減は、社会的に重要な課題です。そこで、土砂災害の発生機構、予測手法、ハザードマップの高度化などについて検討しています。 山間部からは土砂だけでなく流木も流出することで橋が閉塞して、被害をもたらすこともあります。危険な橋や流木の条件を実験や解析から明らかにすることや、気候変動を考慮した土砂災害の特徴を考慮した対策の検討も重要なテーマであり、研究を進めています。

山間部で崩壊や土石流により発生した土砂が、長時間、長距離にわたって下流へ流出して、河道を埋塞して溢れることにより被害が発生する土砂・洪水氾濫が近年問題になっています。現象把握のための調査、観測、シミュレーションによる検討を進めています。


土石流のメカニズム解明とシミュレーション高度化に関する研究

図:住宅地での土石流シミュレーション(左)、下流側の土砂・洪水氾濫のシミュレーション(右)の堆積過程

土石流は甚大な被害をもたらす現象で、数値シミュレーションによる予測も実用化されています。しかし、土石流の挙動や流動メカニズムは完全に解明されているわけではありません。殊に細粒土砂を多く含む土石流では、流動性が高くなることが知られています。 そこで、土石流の流動性に影響する細粒土砂の含有率を現地で観測し、挙動の解明とモデル改良を目指した研究を行っています。写真は矢印が観測施設で、土石流の内部の情報を得るための計測の様子(右、出水時)を示しています。

図:土石流中の細粒土砂の含有率の観測(矢印が観測施設、右・出水時)


ハザードマップの確率化に関する研究

図:アンサンブルシミュレーションを用いて予測した土石流到達確率の空間分布[Yamanoi et al., 2022, arXiv:2211.06837]

土石流のハザードマップは、国内ではいわゆるイエローゾーンとレッドゾーンの2色での表現となっており、その中での危険性の差異を知ることができません。そこで降雨と地形情報を入力条件とした統計的手法により予測した土石流始点の発現確率を入力に、多数の土石流シミュレーション(アンサンブルシミュレーション)を実行することで、土石流の被害領域を到達確率として予測する方法論を開発しています。また、現在、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) スマート防災ネットワークの構築 サブ課題E防災デジタルツインの中で、洪水氾濫の被害についても同様に確率化する技術の開発に取り組んでいます。


土砂災害の気候変動影響評価に関する研究

図:2017年九州北部豪雨で被災した福岡県朝倉市赤谷川支川乙石川流域(左図△)における、最大流量と土砂生産量の予測結果の関係[山野井ら, 2021, 水工学論文集]


気候変動の影響下で、国内において土砂災害の発生頻度やその形態が変化することが危惧されています。当研究室では、土砂災害シミュレーションを用いて、その影響評価研究に取り組んでいます。図は土砂生産・土砂流出統合シミュレーションSiMHiSを用いて、地域気候モデル出力結果中の豪雨データを与え、得られた土砂生産量と最大流量の関係を降雨イベント毎にプロットしたものです。土砂生産量や流量が増加傾向にあるだけでなく、現在気候には存在しない範囲の大規模な土砂生産量や流量が、将来気候だと生起しうることが分かります。







穂高砂防観測所観測流域の土砂動態に関する研究

岐阜県高山市に位置する京都大学防災研究所火山防災研究センター穂高砂防観測所と共同で研究を実施しています。

土砂生産量の観測と予測研究

図:凍結融解による土砂生産観測のためのタイムラプスカメラ設置の様子


高標高の山地流域では、裸地域にある基岩表層の凍結・融解により土砂が剥離して土砂生産が生じることが知られています。写真は、この現象の実態把握のために冬季の観測流域にてタイムラプスカメラを設置している様子です。この現象に対し、予測モデルの構築やこれを用いた予測研究を実施しています。

流砂観測とその活用に関する研究

図:穂高砂防観測所において、足洗谷観測水路で掃流砂を観測するためのハイドロフォンを用いた現地実験(左、中央)や流砂観測を実施している(右)様子

山地流域で土砂が生産され、河川を通り海へ流出する過程(流砂系)は良好な流域環境を維持するための本質的な要素です。土砂管理を行う際に、山地から河口までの土砂動態を詳細に把握し、将来の土砂環境予測を精度よく行うことが望まれます。 このような背景から、土砂流出量の定量的に把握するために、穂高砂防観測所の観測水路に設置したハイドロフォン(上写真)を用いて、掃流砂観測の高度化研究を進展させています。 また、近年ではこのデータを用いてシミュレーションの精度を向上させ、上流での生産現象を推定するためのデータ同化技術開発にも取り組んでいます。

土砂流出量の定量把握に関する研究

動画:ヒル谷試験堰堤堆砂池の排砂作業の様子

穂高砂防観測所では、ヒル谷下流部の堰堤上の堆砂池に堆積した土砂量を測量し、その体積の差分を採ることでヒル谷からの2時期間の土砂流出量を観測しています。55年以上に渡る世界でも貴重な観測です。 一方で、たまった土砂は人力で排出する必要があります。我々の研究室では、年に数回学生が観測所に滞在し、終了後のBBQを楽しみにしながら排砂作業を実施しています(動画)。流水による土砂の輸送を身近に感じられる貴重なイベントとなっています。

火山噴火の影響下での土砂流出予測に関する研究

図:中尾高原から望む焼岳

図:土石流予測モデルによる、土層厚Dと河床透水係数kと、2020年の土石流発生に関する安全率Fdebの感度分析結果[岩井ら, 2024, 砂防学会誌]

近年、観測所のそばにある焼岳の火山活動が活発化の傾向にあります。今後噴火に至ると、足洗谷流域では土砂流出が活発化すると考えられます。噴火後の土石流の発生や土砂流出を予測するため、噴火による土層の変化を考慮可能な土砂流出・土石流発生予測シミュレーションモデルの開発を行っています。

流砂系の健全な土砂流出に関する研究

山間部から発生し、下流まで流出する土砂や流木を、全て構造物で制御することは困難です。被害を出すことなく「無害化」して、巨礫や流木は砂防堰堤で制御する、 細かい土砂は濃度や粒径、流砂量をコントロールしてバイパス水路や流路・道路を通じて安全に流出させる、土砂の一部は公園やグランド等を遊砂地として活用して堆積させるなど、土地利用を考慮した対策が今後必要になると考えます。
調査、観測、シミュレーションを活用して、砂防分野だけでなく河川やダム等の連携分野と協力することで、安全な街づくりを提案することを目指しています。